動物行動学 – 動物の行動に関する研究 


このブログの日本語訳にあたりまして
2022年度iGEMチームWaseda_Tokyoの林﨑諒巡に担当していただきました
ありがとうございます。


動物行動学 – 定義と用例

今回は、非常に興味深いテーマである「動物行動学」を紹介したいと思います。まずその定義です。動物行動学とは、動物の行動を研究する学問です。「行動」とは何を意味するのでしょうか。例えば動物のコミュニケーション、捕食、交尾、移動などを挙げることができます。また、これらの行動特性は、動物の自然環境下で研究されることがほとんどです。動物行動学では、行動の研究を2つの側面から区別することがよくあります。1つは、本能を構成するすべてのもの(すなわち、動物が継承し、理由もなく示す行動)であり、もう1つは、学習(動物が生涯をかけて身につける行動)です[1]。

動物行動学に関連する分野には、神経行動学、行動生態学、社会生物学、野生生物学、進化心理学、動物学などがあります。動物行動学は様々役に立ちます。例えば、動物保護が挙げられます。種の保存と保護は、自然の生息地におけるその行動をよりよく理解することで、促進されます。その他の用途については、「応用編」のセクションで紹介します。その前に、少し歴史を振り返っておきましょう。

動物行動学の簡単な歴史

 今日の動物行動学がどのようなもので、どのような応用分野があるのかを知る前に、まず、現在の動物行動学が考案された当時を振り返ってみることにしましょう。

私たちが知っている動物行動学が最初に発明された時代に戻ってみましょう。それは約1世紀ほど遡る1930年代のことです。

そのころ、オーストリアの生物学者であるコンラッド・ローレンツ(Konrad Lorenz)は、動物の行動に関する研究を始めました[2]。彼の研究や調査の多くはオランダの動物学者ニコラウス・ティンバーゲン(Nikolaas Tinbergen)やドイツの昆虫学者であるカール・フォン・フリッシュ(Karl von Frisch)との協力のもとで行われました。彼らの協力もあって、ローレンツは今日の動物行動学を確立しました。当時は、動物の重要な行動はすべて教育されて得られるものだという認識が一般的でした。しかし、それに対して、ローレンツは、行動は遺伝子の産物であると考えました。例えば、鳥は何も教えなくても飛ぶことができます。 また、ローレンツは「いじめ」という言葉も作った人物です。この言葉は社会的な動物が、規範から外れた行動をとる個体を追い出すことを観察したものでした。

KONRAD LORENZ
NIKOLAAS TINBERGEN
KARL VON FRISCH

今日、生物の授業でよく習う動物行動学の例として、カモメの雛が空腹時にとる行動があります。下図のように、親カモメのくちばしは黄色で、赤い斑点があります。カモメの雛はお腹が空くと、その赤い部分をつつきます。そうすることによって親に自分の空腹を伝え、親はそれに応えて餌を吐き出すからである[3]。この行動の発見と分類はニコラウス・ティンバーゲン(Nikolaas Tinbergen)によるものでした。このつつき行動は、超常刺激(supernormal stimulus)という言葉を作り出しました。この言葉は、ある種の反応を引き起こす刺激と定義されていますが、ピンとこないと思いますので、先のカモメの例で考えてみましょう。

雛カモメのつつきは、餌が欲しいという欲求から生じています。そこに、ティンバーゲンが黄色い鉛筆に3本の赤い帯をつけたものを巣に置くと、親カモメが居たとしても、子鳥は鉛筆をつつき、親カモメを全く無視するようになったのです。

つまり、鉛筆の誇張された刺激が、親カモメのくちばしよりも子カモメに強いシグナルを発したのだ。

IMAGE BY REINER FROM PIXABAY

カール・フォン・フリッシュ(Karl von Frisch)は、ミツバチに関する上手な研究を通じて、動物行動学の発展に貢献しました[4]。フォン・フリッシュは、ミツバチの行動とコミュニケーションの両方を研究しました。

彼は蜜を見つけたハチが、そのことを他のハチに伝えるために踊ることを発見したのです。そのダンスはその方向、大きさ、質を特定したダンスで、巣の中の他のハチにそれを伝えるのでした。なんて素敵なダンスなんでしょう!

これらの研究をしたティンバーゲン、ローレンツ、フォン・フリッシュの3人は、1973年にノーベル医学生理学賞を受賞しています [5]。

今日の動物行動学

それでは、動物行動学の歴史から、興味深い今日の動物行動学の話に移りましょう。

今日の動物行動学は、さまざまな研究テーマに発展しており、遺伝学、神経学、エピジェネティクス、生態学など、他の生物学の分野と融合していることが多いです。動物の行動がさまざまな要因によってどのように影響されるかをより深く理解できるのです。それでは今日行われている面白い動物行動学の例にあなたをいざないます。

5年前、世界の家畜の行動には大きな変化がありました。5年前、世界の家畜の数は、ニワトリ228億羽、ウシ15億頭、ヒツジ12億頭、アヒル12億頭でした。

これらの数字は昔よりも現在の方が大きな数字になっているでしょう。それは、人間の人口が増えれば増えるほど、食料生産への需要が高まるからです。このように膨大な数の家畜を飼養する農家にとって、家畜の良好な生活環境を維持することは大きな関心事である。

スウェーデンのLinköping大学のJensenのグループは、家畜行動の研究に焦点をあわせています。[7]。グループは、家畜化によって行動がどのように変化するのか、また、家畜行動の理解をどのように私たちの生活に還元するのかを研究します。

彼らは、例えば、動物行動のエピジェネティクスの研究においては、「…ストレスを経験した動物は、エピジェネティクスを獲得する」と述べています。このエピジェネティックな修飾は、将来の世代に受け継がれる可能性さえあるのです。このような研究は家畜化されていないが人間に飼われている動物の福祉を向上させるのにも役立つといえるでしょう―例えば動物園で飼育されている動物などです。

多くの場合、動物行動学の研究では、動物や動物の群れを実験室で特定の刺激にさらし、行動上の反応を観察します。しかし、実験室での動物行動学実験の問題点は、100%再現できないことです。実験室では、環境にしか存在しない要因などを再現することができないのです。また、野生の動物の行動を研究する場合であっても、人間による攪乱を考慮しなければなりません。こういった科学バイアスの解消に取り組み、それを低減するための良い方法として、ロボットに監視を行わせるという方法があります。

ある研究では、遠隔操作の車両で野生のペンギンに近づいたところ、人間が近づいたときと比較して、ストレス反応が有意に低くなったという結果が得られています[8]。

IMAGE FROM “ROVERS MINIMIZE HUMAN
DISTURBANCE IN RESEARCH
ON WILD ANIMALS” BY MAHO ET. AL.

さらに、ロボットに監視をさせるだけでなく、監視対象の動物に似せたり、擬態させたりすることで、より効果的に監視を行うことができます。これにより、特定の行動に対する動物の反応を記録できる可能性が見えてきます。

この課題に取り組んだ興味深い研究プロジェクトがフランク・ボンネット(Frank Bonnet)ら[9]の研究がまさにその一つです。彼らは、小魚の移動や体動を模倣するモジュール式ロボットシステムを提案しています

また、別の論文では、このテーマを継続し、「魚型ロボットをゼブラフィッシュのように模倣してそこで社会性を持たせるにはどのようにすればよいか?」(“How mimetic should a robotic fish be to socially integrate into zebrafish groups?”) という研究も行っています。 この種の研究は、動物行動学のまったく新しい道を切り開くものであり、この学問領域の発展のために正しい道を歩むものだと思います。

さて、この学問領域の将来はどうなるだろう?

この研究分野を発展させるためには、まだ多くの課題があるとある記事では言われています [11]。まず一つ、動物行動学の基本的な概念について、研究者の間で真のコンセンサスがまだありません。そして第二に、実施されている研究は、霊長類に非常に集中しています。研究対象種を拡大し、多様化させることに面白みがあるでしょう。現在の研究手法は、偏りの原因となる可能性があり、正しい結論が導かれないこともあるでしょう。

論文で何度か触れたように、この動物行動学という学問領域は様々な分野に絡んでおり、気候変動によって必要になってくる動物保護のための大きな支援になるでしょう。地球温暖化による環境の変化は動物の環境への適応に影響します。

動物に対する詳細な知識は、動物の将来をより詳細に理解することに繋がります。今後改善すべき点として挙げられるのは、対話と協力の欠如です。より多くのエンジニアをこの分野に取り込んで実験手法やその技術的な側面を改善する必要があります。それは例えば今回この記事で述べたようなロボットなどの技術革新のようなものです。

参考文献

[1] https://www.masterclass.com/articles/guide-to-ethology-exploring-the-study-of-animal-behavior
[2] https://www.britannica.com/biography/Konrad-Lorenz
[3] https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S0003347209000165
[4] https://www.nature.com/articles/nature03526
[5] https://www.nobelprize.org/prizes/medicine/1973/summary/
[6] https://storymaps.arcgis.com/stories/58ae71f58fd7418294f34c4f841895d8
[7] https://liu.se/en/research/jensengroup
[8] https://www.nature.com/articles/nmeth.3173′
[9] https://journals.sagepub.com/doi/full/10.1177/1729881417706628#body-ref-bibr1-1729881417706628
[10] https://www.researchgate.net/publication/320067775_How_mimetic_should_a_robotic_fish_be_to_socially_integrate_into_zebrafish_groups
[11] https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8472011/

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