幹細胞はクリーエーターである 


このブログの翻訳にあたりまして、
2022年度iGEMチームWaseda_Tokyoの中村春香にご協力いただきました。
ありがとうございます。


タイトルのその通りなのです。一体幹細胞は何を創り出すでしょうか?そう、らすべての臓器や組織、そして体内のあらゆる特殊な細胞を創り出すのです。幹細胞の働きを理解するために、まず組織がどのように構築されるかを見てみましょう。

組織は、細胞外マトリックスと呼ばれるタンパク質と分子のネットワークに囲まれた細胞から成り、これが細胞に構造と強度を与えています。この細胞群は、どれも似たような構造と機能を持ち、この形成により、共に特定の機能を発揮することができます。そして、異なる機能を持つ細胞が集まってできた複数の組織が、私たちの臓器を形成しているのです。

では、幹細胞はどのように関わっているのでしょうか?

幹細胞の役割

体内には、特定の仕事をするために特化したさまざまな種類の細胞が存在します。この多様性を作り出し、組織を生成、あるいは再生するのが幹細胞の役割です。幹細胞は、他の細胞種に分化する力を持つ、特殊化されていない細胞です。

幹細胞の種類と変化する細胞種
出典:Creative Commons

幹細胞には2つの種類があります。それら2つを見ていきましょう。

1. 胚性幹細胞は、生後3~5日以内の胚の中に存在します。この時点で胚には約150個の細胞があり、他のどんな種類の細胞にも、さらには他の幹細胞にも分化できる力を持っています。これは「多能性幹細胞」と呼ばれています。この幹細胞は、体内のあらゆる細胞の元となるものです。このようにして、たった一つの受精卵の細胞が、さまざまな機能を持つ内部構造を持つ極めて複雑な多細胞生物に成長することができるのです。この胚性幹細胞はこのような多能性を持っているため、自力では再生しない損傷した組織や臓器の再生に利用される可能性があります。

2. 成体幹細胞は、ほとんどの組織に少量存在する細胞です。胚性幹細胞とは対照的に、成体幹細胞には役割が与えられており、ある種の細胞にしか分裂しない可能性があり、これは多能性幹細胞と呼ばれています。例えば、骨髄の幹細胞は血液細胞に限定されており、それ以上の幹細胞、例えば筋肉細胞は作れません。

ヒトの胚
出典:Creative Commons

幹細胞は、その再生能力から、医療における可能性は非常に大きいのです。幹細胞で何ができるのか、詳しく見ていきましょう。

幹細胞治療

心臓病の治療

心臓病は、米国における死因の第1位であり、最終的には脳卒中や心臓発作につながる可能性のある疾患群です。成人のように心臓の発達が完了すると、脳卒中による損傷のような大きな領域を修復することができなくなります。不可逆的な損傷は、心臓への血液供給が停止または減少したときに、心臓の細胞が酸素欠乏で死んでしまう結果であり、その結果、しばしば心機能障害や心不全を引き起こし、胸痛や息切れといった心臓病から連想される一般的な症状を引き起こします。

心臓病の治療法として、様々な幹細胞が研究されています。最も一般的な方法は、患者さんから採取した幹細胞を使用するもので、これは自家幹細胞と呼ばれ、他の個体から採取した幹細胞は同種幹細胞と呼ばれます。幹細胞は、例えば骨髄や心臓の部位から採取されます。幹細胞を心臓組織に導入することで、筋肉組織に分化して心臓を強化したり、内皮細胞(血管の内皮)に分化して損傷した組織に新しい血管の形成を促し、心臓組織の回復と心機能の改善を図ることができるとされています。

心筋細胞(心臓の筋肉の細胞)
出典:Creative Commons

脊髄損傷の治療

幹細胞の可能性を示すもうひとつの例は、脊髄損傷のケースです。脊髄が損傷すると、体の治癒や回復が不可能になります。その結果、脳と体の間の神経接続が決定的に失われ、感覚と運動能力が失われます。

幹細胞治療のおかげで、注入された幹細胞から新しい神経細胞の再生を誘導し、新しい接続を出現させることが可能になりました。また、傷ついた神経細胞は、幹細胞からデンドロサイト(樹状細胞)に分化し、髄鞘を形成することができます。これらはすべて、傷ついた人々の一般的な状態を改善する効果を持っています。

細胞の時間を戻す

幹細胞治療の大きな問題のひとつは、治療に必要な幹細胞をどのように入手するかということです。成体の幹細胞は使用可能ですが、限界があります。あらゆる種類の細胞に分裂することができず、培養や他の細胞との分離も困難です。一方、胚性幹細胞は、あらゆる種類の細胞に分裂することができますが、体にとって異物であるため、免疫系によって拒絶される可能性があります。胚性幹細胞の多くは、体外受精の際に残った受精卵から作られますが、受精卵を治療に用いることの倫理的側面も重要なポイントとして議論されています。

成体細胞からの多能性幹細胞の誘導

この倫理的な問題を解決する方法が、2006年に山中伸弥氏らの研究チームによって見出されました。そのアイデアとは 大人の細胞から幹細胞を作ることです。山中因子と呼ばれる4つの転写因子を入れるだけで幹細胞を作ることができます。この4つの転写因子は、胚発生段階に関与する遺伝子の発現を活性化し、細胞の決定に関与する遺伝子を抑制するために使われます。この方法は、その単純さに驚かされますが、非常に効率的で、多くの可能性を持っています。

しかし、これらの因子を導入するためには、ウイルスベクターを用いるのが一般的です。実は、この因子を導入するために、レトロウイルスが導入されます。この方法はDNAに干渉するため、場合によっては腫瘍化するような突然変異が観察されることも稀ではありません。メッセンジャーRNAのような山中教授の因子を導入する他の方法は、たとえ効率が悪くても、腫瘍発生のリスクを減らすために使用することができるのです。

この技術には非常に期待が高まっています。幹細胞を得るために胚を使用したり破壊したりする必要がないのです。これにはいくつかの利点があり、まず、胚を使用するという倫理的な問題が解決されます。また、幹細胞は成人の細胞から採取されるので、その細胞は移植を受ける人と遺伝的に同一であるため、この方法だと、移植片の拒絶反応が起きません。

一方、この新しい方法は倫理的な問題も含んでいます。この方法では、理論的には人間全体のクローンやキメラ動物の作成が可能になるはずなのです。乱用を避けるため、明確な制限を設ける必要があるでしょう。

まとめ

つまり、幹細胞は医療において大きな可能性を秘めており、その再生能力を考えると、大きな研究分野であるということが言えるでしょう。しかし、腫瘍性など改善すべき点も多いのも事実です。また、その応用の可能性が大きいだけに、倫理に反した乱用が行われないよう、その使用と漂流を適切に管理することが必要です。

参考文献

https://www.mayoclinic.org/tests-procedures/bone-marrow-transplant/in-depth/stem-cells/art-20048117#:~:text=Researchers%20hope%20stem%20cell%20studies,how%20diseases%20and%20conditions%20develop

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/B978012809657465740X

https://www.nih.gov/news-events/news-releases/covid-19-was-third-leading-cause-death-united-states-both-2020-2021#:~:text=Heart%20disease%20was%20the%20number,fifth%20leading%20causes%20of%20death

https://www.mayoclinic.org/diseases-conditions/heart-attack/symptoms-causes/syc-20373106

https://ki.se/en/research/now-stem-cells-will-build-our-health

Induced Pluripotent Stem Cell – an overview | ScienceDirect Topics

https://fr.wikipedia.org/wiki/Cellule_souche_pluripotente_induite

Narihito Nagoshi, Osahiko Tsuji, Masaya Nakamura, Hideyuki Okano (2019). Cell therapy for spinal cord injury using induced pluripotent stem cells. Regenerative Therapy, 11, 75-80.

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