生命の起源についての記事でお伝えしたように原核生物（核がない細胞をもつ）1 は地球上に住む初めの生命体とされています。進化の過程で真核生物（核がある細胞をもつ）が現れました。見た目が違うこれら２つの生物の出現をどう説明すれば良いのでしょうか。これを説明する理論は、現在科学界では「細胞内共生説」と言われていて、2 これは真核生物の誕生とキメラ起源の可能性を説明しました。
原核生物と真核生物の主な違い
細胞内共生の概念
この理論の話に入る前に細胞内共生について説明しましょう。「細胞内共生」とは、接頭語 “endo-“（内部の）と “symbiosis”（異種の生物が、相互に作用し合う状態で生活すること）という意味です。3 細胞内共生の場合、ある生物の中で他の生物が住んでいる状態でお互いに作用し合っていることを示します。ここで言う相互作用は、お互いに依存し合っていて、お互いがなくてはならない存在であることを指します。
細胞内共生説
先ほど説明した細胞内共生の概念は細胞内共生説を理解する上で基礎となります。これはどのようにして真核生物が生まれたのかだけでなく、特にミトコンドリア（真核生物に存在します）と葉緑体（植物に存在します）がどのように生まれたのかを教えてくれます。これらは細胞小器官と呼ばれるもので、4 もともとは原核生物の細胞でしたが、真核生物の最初となる生物がこれを摂取したと考えられています。普通、摂取されると無傷で済むはずはなく、私たちが食べ物を摂取した時のように消化されます。しかし、中には摂取された後消化されず、その生物（「宿主」と言います）の中で生き始めることもあります。真核生物の場合、摂取されたものが後にただの細胞小器官になってしまったということです。細胞内共生説によると、真核生物の中でこの現象はミトコンドリアと葉緑体の２回起こったと考えられています。２回目の葉緑体は植物でのみ起こったということですね。
細胞内共生が真核生物の細胞を作ったと言えるでしょう。
この説って証明されてるの？
科学的理論は直接証明できないこともたくさんありますが、この細胞内共生を支持する証拠はたくさんあります。5 もちろん直接証明できてはいないので、100%証明されているとは言えませんが、（進化論と同じように）正解にかなり近い概念だと考えられています。
ミトコンドリアと葉緑体は原核生物にとてもよく似たDNAからできている、という事実が細胞内共生論の始まりでした。さらにミトコンドリアと葉緑体が普通の細胞と同じようにタンパク質の転写と翻訳を行なっている唯一の細胞小器官であることも確認されています。
またミトコンドリアと葉緑体のサイズは原核生物と同じようなサイズであり、遺伝的に関わりがあることもわかっています。一般的に原核生物の細胞は植物や動物の細胞よりもはるかに小さいため、真核生物の始まりとなる生物が原核生物を食物源として定期的に摂取していた可能性も示唆されています。
さらに分裂の仕方からも証明されています。真核生物は有糸分裂という方法で細胞分裂を行いますが、ミトコンドリアや葉緑体は分体という方法で分裂を行います。7 この分体という方法は多くの原核生物が分裂するときに行う方法なのでここからも細胞内共生が支持されています。6
細胞分裂の仕方
それだけでなく、ミトコンドリアと葉緑体の細胞膜を見ると2層の膜でできていることが確認されます。これは下の図のように真核生物が原核生物を摂取した際にできたと考えられています。
「食作用」とは細胞が細胞を食べることを可能にするプロセスです。
なんで細胞内共生なんてしてるの？
今回、細胞内共生のことやその証拠を紹介してきました。皆さんの中には単なる食う食われる関係でなく、食われた生物が食った生物の中で生き続けるなんてと意外に思った人も多いのではないでしょうか？この関係によって得られるものってどんなものなのでしょうか？
最初にきちんと言っておきたいのですが、このような関係性になるのは極めて稀です。ミトコンドリアも葉緑体もエネルギー生産の可能な構造であったために、そのエネルギーを供給することで宿主に利益のある関係となり、宿主を「納得」させて宿主内で生き続けることを可能にしたのではないかと考えられます。宿主内で生きるということは摂取された細胞側にしても、宿主に守られるということを示しているため、この細胞内共生という形は相互に利益のある関係を築けます。このようにして2つの生物が1つになったと考えられています。
補足情報を含めた面白いビデオがあるのでもしよかった観てみてください！ https://www.youtube.com/watch?v=FGnS-Xk0ZqU
参考文献：
